「ロング・グッドバイ」 レイモンド・チャンドラー 村上春樹訳 ハヤカワ文庫 ― 2011/06/25 23:22
私立探偵マーロウは酔っ払った金持ちの亭主を拾い、その男、テリーと不思議な親交を暖める。やがてテリーはのっぴきならない面倒ごとに巻き込まれ、マーロウはその逃亡を助ける。そしてその評判を聞きつけた美貌の夫人から依頼を受ける。
もう、ミステリの世界ではほぼ古典ですね。アメリカもので古いのはクイーンくらいしか読んだことがなかったんですが、あっちのスカした感じとは違って、こっちはすごく南部の香りがしますね。舞台は西海岸ですが。テレビドラマになっちゃいますが、古くはコロンボとか比較的新しいのだとナッシュ・ブリッジスあたりが私のイメージする西海岸的なお話ですね。
ハードボイルド、の元祖なんでしょうか。台詞回しが、描写が、スモーキーなバーボンの匂いを振りまいてます。あるいはそれは世界の村上春樹が意図的にやってるんでしょうか。いずれにせよ、日本のそれっぽい小説とは格が違う感じはします。日本人が書くとちょっと底すべりしてるような気がして仕方がないんですよね。風土の違いもあるんでしょうけれども。サムライはハードボイルドとはちょっと違うんだよなぁ。サムライはもっと寡黙で馬鹿正直なイメージです。
村上自身のあとがきに、ヘミングウェイとチャンドラーの関係について解説があります。ここで2つははぁと思いました。ひとつは、ハードボイルドの系譜の根っこにはヘミングウェイ爺さんがいるんだ、ということ。もうひとつはこの南部の香りはそこから来ているのであろうこと。そんなことも知らなかったのか、と言われるとそれまでですが。
ツンデレ姉さんとの別れの後の描写、「さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ。(To say goodbye is to die a little.)」 なるほど。だから私はさよならを言うのが嫌なのかも知れない。「じゃ、また。」みたいに逃げちゃってますね。普段から。タフさが足りないなぁ。
「告白」 湊かなえ 双葉文庫 ― 2011/06/20 22:55
一年生の終業式の日、B組の担任森口はホームルームで長い別れの挨拶をした。教師を辞めるという告白から始まったそれは、とりとめのない話のようで周到に仕組まれた復讐ののろしだった。
09年度の本屋大賞第一位の作品です。映画化もされましたね。未見なのでストーリーがどれくらい一致しているのか知りませんが、この結末で映画化したのだとしたらすごい、と思います。
最初の章は森口の告白だけで完結しています。基本的に森口のセリフだけです。ただ、時々生徒に名前で呼びかけたりします。これはまさに読み手がこのクラスの一員になったような感覚に落とし込みます。この冒頭部分の読み応えはすごいですね。ここだけでも読む価値はあるんじゃないでしょうか。
以降、終章まで森口は出てきません。関係者の一人称で各章が構成されています。この辺は互いの視線が微妙にねじれからまっていて、登場人物が立体的に浮かび上がってくるところですね。ウェルテルの章がないのがミソでしょうか。
終章で再び森口が登場します。講話調の語り口も丁寧な語尾も冒頭と同じですが、明らかに何かが変わっています。どう変わっているのか、たぶん映画とは違う結末なんじゃないでしょうか。これは読んでみてのお楽しみですね。
「ローマ人の物語 38~40」 塩野七海 新潮文庫 ― 2011/06/12 21:15
コンスタンティヌスによるキリスト教の公認とその死、内乱、皇帝の乱立、分割統治といった具合に坂を転がり落ちていく状態の古代ローマの姿を描いています。最終的にはキリスト教の国教化、東西ローマ帝国の分裂までがこの巻の範囲です。本当に末期ですね。
集団や国家の栄枯盛衰は世の常だということを考えれば、必ずしもローマ帝国が継続することがよしとは思わないものの、よき文化、文明が一気に滅んでしまったような気持ちになります。その大きな一因がキリスト教なんでしょうが、蛮族の文明化にも一役買っていたのではないかと思うと、単純に非難もしづらい。ルネッサンスという大きなジャンプを得るまでに、かなりの長期間、ヨーロッパはしゃがみこまなければならなかったのだなぁ、と思います。
いよいよ文庫版も終盤を迎えそうです。楽しみですね。
「インシテミル」 米澤穂信 文春文庫 ― 2010/10/16 18:12
コンビニでアルバイト情報誌を繰っていた結城は楚々とした場違いな美女須和名祥子と出会う。その須和名が指し示す記事には時給11万2千円のアルバイトが。車欲しさに結城が応募した怪しげな「ある人文科学的実験の被験者」とは極めて不穏当かつ非倫理的な仕事だった。
作者は2010年度版このミステリーがすごい!の作家別一位を獲得しているようです。なんというかすごく凝った話です。登場人物が多い、舞台描写がしっかりしている、ルールが細かい等々。これだけの煩雑さをそれなりにコントロールして物語として成立させている力量はすごいと感じました。もちろん、読者もそれなりにがんばらないとついていけませんが。
この手の凝ったミステリーはマニアックな話になりがちなところ、エンタテインメントとして楽しめる作品になっていると思います。映画化、というのも納得できる感じがします。まぁ、ロケとかほとんど必要なさそうなので、舞台となる暗鬼館のセットにもよりますが、制作費は結構安く上がるのかも。
しかし、空気の読めない文庫本読みとしては引っかかったところを指摘せざるを得ないですね。とにかく、人がキレイに死にすぎです。皆さんほぼ即死なんですよね。よく2時間ドラマとかで女の人が強請りにきた好色親父を刃渡り10cmくらいのナイフの一撃で即死させちゃうシーンとかありますが、あんな感じ。たとえば、飛び道具って意外に一撃必殺って難しいと思うんだけどなぁ。接近してたとしても。あともうひとつの方もちょっと疑問。時速20km位ですよ。中学物理で計算すると。死ななくはないと思いますが・・・
とはいえ、筆力はしっかりしてるし、最後のシーンも悪くないと思います。火サスに突っ込みいれたことのない方は文句なく楽しめるんじゃないかと思います。
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