「ローマ人の物語 38~40」 塩野七海 新潮文庫 ― 2011/06/12 21:15
コンスタンティヌスによるキリスト教の公認とその死、内乱、皇帝の乱立、分割統治といった具合に坂を転がり落ちていく状態の古代ローマの姿を描いています。最終的にはキリスト教の国教化、東西ローマ帝国の分裂までがこの巻の範囲です。本当に末期ですね。
集団や国家の栄枯盛衰は世の常だということを考えれば、必ずしもローマ帝国が継続することがよしとは思わないものの、よき文化、文明が一気に滅んでしまったような気持ちになります。その大きな一因がキリスト教なんでしょうが、蛮族の文明化にも一役買っていたのではないかと思うと、単純に非難もしづらい。ルネッサンスという大きなジャンプを得るまでに、かなりの長期間、ヨーロッパはしゃがみこまなければならなかったのだなぁ、と思います。
いよいよ文庫版も終盤を迎えそうです。楽しみですね。
「告白」 湊かなえ 双葉文庫 ― 2011/06/20 22:55
一年生の終業式の日、B組の担任森口はホームルームで長い別れの挨拶をした。教師を辞めるという告白から始まったそれは、とりとめのない話のようで周到に仕組まれた復讐ののろしだった。
09年度の本屋大賞第一位の作品です。映画化もされましたね。未見なのでストーリーがどれくらい一致しているのか知りませんが、この結末で映画化したのだとしたらすごい、と思います。
最初の章は森口の告白だけで完結しています。基本的に森口のセリフだけです。ただ、時々生徒に名前で呼びかけたりします。これはまさに読み手がこのクラスの一員になったような感覚に落とし込みます。この冒頭部分の読み応えはすごいですね。ここだけでも読む価値はあるんじゃないでしょうか。
以降、終章まで森口は出てきません。関係者の一人称で各章が構成されています。この辺は互いの視線が微妙にねじれからまっていて、登場人物が立体的に浮かび上がってくるところですね。ウェルテルの章がないのがミソでしょうか。
終章で再び森口が登場します。講話調の語り口も丁寧な語尾も冒頭と同じですが、明らかに何かが変わっています。どう変わっているのか、たぶん映画とは違う結末なんじゃないでしょうか。これは読んでみてのお楽しみですね。
「ロング・グッドバイ」 レイモンド・チャンドラー 村上春樹訳 ハヤカワ文庫 ― 2011/06/25 23:22
私立探偵マーロウは酔っ払った金持ちの亭主を拾い、その男、テリーと不思議な親交を暖める。やがてテリーはのっぴきならない面倒ごとに巻き込まれ、マーロウはその逃亡を助ける。そしてその評判を聞きつけた美貌の夫人から依頼を受ける。
もう、ミステリの世界ではほぼ古典ですね。アメリカもので古いのはクイーンくらいしか読んだことがなかったんですが、あっちのスカした感じとは違って、こっちはすごく南部の香りがしますね。舞台は西海岸ですが。テレビドラマになっちゃいますが、古くはコロンボとか比較的新しいのだとナッシュ・ブリッジスあたりが私のイメージする西海岸的なお話ですね。
ハードボイルド、の元祖なんでしょうか。台詞回しが、描写が、スモーキーなバーボンの匂いを振りまいてます。あるいはそれは世界の村上春樹が意図的にやってるんでしょうか。いずれにせよ、日本のそれっぽい小説とは格が違う感じはします。日本人が書くとちょっと底すべりしてるような気がして仕方がないんですよね。風土の違いもあるんでしょうけれども。サムライはハードボイルドとはちょっと違うんだよなぁ。サムライはもっと寡黙で馬鹿正直なイメージです。
村上自身のあとがきに、ヘミングウェイとチャンドラーの関係について解説があります。ここで2つははぁと思いました。ひとつは、ハードボイルドの系譜の根っこにはヘミングウェイ爺さんがいるんだ、ということ。もうひとつはこの南部の香りはそこから来ているのであろうこと。そんなことも知らなかったのか、と言われるとそれまでですが。
ツンデレ姉さんとの別れの後の描写、「さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ。(To say goodbye is to die a little.)」 なるほど。だから私はさよならを言うのが嫌なのかも知れない。「じゃ、また。」みたいに逃げちゃってますね。普段から。タフさが足りないなぁ。
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