「レディ・ジョーカー」 高村 薫 新潮文庫 ― 2012/03/04 21:53
義憤なのか諦観の末の恨み節なのか、戦後の混乱期に企業に送りつけられた要求も意図すらもはっきりしない怪文書が現代の男たちの運命を狂わせる。顔のない企業という装置が、その装置の周囲に群がる影も見えない魔物たちが、精一杯の悪を働く男たちと、その犯罪を追う合田の周囲で蠢く。真相を置き去りにして動き始めた歯車は生贄を巻き込みながらなおも加速していく。
1998年、毎日出版文化賞受賞作です。ハードカバーも読みました。濃い大作です。当時も結構読み切るのは大変だなぁと感じましたが、やっぱり読み応えたっぷりです。高村薫恒例の文庫版に際し、どれくらい加筆修正されているのかちょっとわかりませんでした。もう一回ハードカバーの方を読み返さないとダメそうです。
ハードカバーで読んだ当時は若造でよくわからなかったことも多かったですが、会社員勤めを17年続けて、企業というフレームワークの非情さ、不条理さを眺めてきたことで、なるほどと腹に落ちる事が多かったです。また、コンプライアンスという名の下であれもダメこれもダメと言われる事で、その背後に蠢く何物かも、直接は見えないが川底の石の裏にきっとおぞましい虫たちがいる、というレベルでは認識していたりするので、企業に取り付くものたちの描写も当時よりもずっと気味悪く感じられました。
読んでいる間、人の希望や幸せと現代の資本主義、企業とはなにかと何度も自問しましたが、やっぱりよくわかりませんね。世の中には利益を出して法人税を納めなければ企業として存続する意義がない、という経営者がいます。まぁ理解できなくもないですが、そこそこトントンでやっていく事で雇用を守り社会がきちんと機能することに貢献しているという側面を無視していいのかなぁ、と常々思います。
読後すっきり、サイコーという感想は絶対持てないという点でエンタテイメントとしては微妙かもしれませんが、僕は好きですね。
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