「秀吉と武吉」 城山三郎 新潮文庫2007/05/11 23:49

瀬戸内の交通を牛耳っていた海賊村上水軍の総領村上武吉。信長、そして秀吉という時代の流れに翻弄され続ける中、海賊としての意地を通し、地にまみれてもなお生き続ける。海で生きていくことを切に願った海賊の意地と生存のための戦いの記録。

3月に亡くなった城山三郎の本です。瀬戸内海を跋扈していた村上水軍の総大将、村上武吉の盛衰記、という感じでしょうか。非常に硬質な文章です。読むのにかなり時間がかかりました。どきどきはらはらする、といった趣きではないですが、読後に考えさせられることが多いです。

まず、考えさせられたことの一つは、新しい時代の流れに乗るべく、単純な海賊行為を禁じ、通行料である帆別銭を取り立てることで安定した収入を図ろうとするも、それを遥かに超えるスピードとスケールの動きに翻弄され続ける姿は、現在のIT業界の状況とダブって見えて苦い思いがしました。情報が必要、大事と認識しつつ、孤島に住むがゆえに思うがままに情報が集まらない焦りと予想を遥かに超えるスピードで進む時代、そして外乱。

もう1つは、意地は通せ、しかしなんとしてでも生きながらえろ、という武吉の配下への指示。死ぬことを潔しとする戦国以降の武士道とは異質なものの考え方ですが、私は好きです。安易なヒロイズムに酔いながら死ぬくらいなら、泥まみれになりながらも生き抜く方が尊敬できます。生き抜くんだけど意地は通す、ってところに知性が必要なわけですしね。組織のトップってこうあるべきだと思いました。

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