「氷壁」 井上靖 新潮文庫2005/12/24 16:14

登山家魚津は、人妻美那子への恋を引きずったザイルパートナー小坂を冬の前穂での事故で失う。魚津の目の前で突然起きたザイルの断裂は、メーカーを巻き込み魚津の立場を複雑なものにしていく。人間関係のしがらみに振り回され孤独を深める魚津に思いを寄せる小坂の妹かおる。愛憎と登山への思いの果て、魚津はどのような選択をするのか?

正月からNHKでドラマ放映のようで平積みになっていたので手にしてみました。ドラマ自体はずいぶん原作とは筋が違うようなのですが、原作は昭和30年頃が舞台のようなので、確かにそのままドラマにするのは難しそうですね。

登山のシーンは面白いですね。私は実際に山に登るわけではないのでリアリティについてはよくわかりませんが、生死の可能性を冷静に見つめた上で行動を積み重ねていく緊迫感がなんともいえません。その分、地上でのドロドロした愛憎劇がどうにもやりきれない感じではあります。徹底的にドロドロしてればともかく、なんだか煮え切らない感じなのもどうかな、という気がします。そこが狙いなのかも知れませんが。

交通機関の感覚が今とは違ったりして、内容には何かと時代を感じますが、文章自体が古いという気はしませんでした。登場人物はそれほど多くないですが、それぞれがしっかりと存在感を持って描かれていて、読み応えがありました。

ちょっと気になるのは、魚津が、死んだザイルパートナーの妹かおると山に登るシーンがあります。山小屋や案内人の皆さんは比較的暖かく彼女を迎えるのですが、一昔前は山へ女性が入るのはあまり歓迎されない傾向があったと聞きます。山ノ神ってやつですね。この時代の穂高はそういう風潮はなかったのでしょうか?

あと、素朴な疑問として、戦争と登山の関係です。魚津の年齢と舞台となっている時代から逆算すると魚津の大学生時代というのは終戦前後かな、という感じです。そういう時期の学生登山がどうだったのか興味があります。

ともあれ、山に女を持ち込むとろくなことにならんぞ、ということでしょうか。

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