「ラッシュライフ」 伊坂幸太郎 新潮文庫2005/09/14 00:24

人生は進む。傲慢な画商の、意思薄弱な大学生の、ポリシーに満ちた泥棒の、自己中心的なカウンセラーの、見捨てられた失業者の。絡み合い、巻き込まれそれでも進む物語を俯瞰するのは、宗教家か案山子か読者か。

伊坂作品2冊目です。オーデュボンの祈りと同様、不思議な空気を醸し出しています。こういう作風なのだと思い知りました。あまり背景を書き込んでないけど、人気のある漫画、ってありますよね。ああいう感じを受けました。単行本横から見ると真っ白いようなやつですね。

登場人物それぞれによる寓意に満ちた会話や内省に満ちていて、そういう世界が好きな人にはお勧めなのかもしれません。私自身は、こういう世界の良さがよくわからないこともあって自信をもってお勧めはできませんが。

私には作者が、「この作品はxxxである。」とならないようにならないように書いているのではないかと思えてなりません。
  「俺の前で、『定義』という言葉を二度と使うなよ。」
と、作中で泥棒に言わせています。また、オーデュボンでもこの作品でも出てきますが、いわゆる探偵小説を切り捨てています。その狙いは外れていないと思いますが、何を目指しているのかは私にはわかりませんでした。結局、私にとってグッと来る感じはなかった、ということですね。

私は初心者レベルでゲームオーバーだったようです。残念。

エッシャーのだまし絵が作品を通したテーマになっているようですが、どちらかというとピカソのキュービズムの絵、「泣く女」あたりの方がしっくりくるような気がしました。対象物を異なる角度や構図、時間でながめ、それらを一見いびつにつないで表現する、という点でです。

この作品がピカソの絵に匹敵するほどイノベーティブかどうかはちょっと私ごときの芸術センスでは判断できませんが。

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