「熱欲」 堂場瞬一 中公文庫2009/01/31 18:34

青山署生活安全課に配属された鳴沢は老人をターゲットとしたマルチ商法の捜査に駆り出された。時を同じくして米国籍を持ちニューヨークで刑事をしている旧友内藤が来日する。内藤の行動に不審を抱くなかで、マルチ商法の事件は意外な展開を見せる。

刑事・鳴沢了のシリーズです。ここまでは割合地味な事件でしたが、今度はちょっと大きめです。国際犯罪的な香りも入ってたりします。とはいっても次作以降への伏線らしきものは張った感じですが、風呂敷はそれほど広がってません。

家族の問題、友人の死とへこみまくっていた鳴沢がようやく人格の再構築を始めるところで終わっている感じです。前作、前々作では、身だしなみにこだわり、靴磨きが趣味で、21時以降は太るからものを食べないなどなど神経質な性格が描写されていましたが、だんだんゆるくなっていっているようです。このあたりはシリーズ物としてきちんと書いているなぁという感じです。

ストーリーについて違和感を感じるのは、終盤は明らかに鳴沢の失態なわけで、私が相棒なら怒り狂ってますね。こんなの普通懲戒ものじゃないでしょうか?前の事件の後干されたみたいですが、そっちの方が全然問題にならないように思います。そのあたりがちょっと感覚が合わない気がしました。

今回も鳴沢を憎からず思う女性が出てきます。モテモテですね。警官ってこんなに出会いの多い職業じゃないと思うんだがなぁ。警官じゃないですが、死んだ魚の目をしたおっさんばかりの職場にいる私としてはうらやましい限りですね。

「ナイチンゲールの沈黙」 海堂尊 宝島社文庫2008/10/18 22:40

クリスマス前に吐血して東城大学病院に運び込まれたアル中の歌手と小児科病棟で眼球摘出を控えた子供達のケア。そして殺人事件。不定愁訴外来の田口に次々と難題が降りかかる中、最大にして最凶の厄介事が霞ヶ関からやってくる。

「チーム・バチスタの栄光」に引き続き愚痴外来の田口と厚生省の役人白鳥が主人公です。心理劇的な側面が強かった前作とは違い、こっちはSFですね。好き嫌いがくっきり分かれそうです。私はそんなに印象悪くないんですが、前作を読んでなかったらダメだったかも、とは思います。

冴子と小夜の超能力もすごいですが、加納の電脳紙芝居が私にとっては最大のSFですね。技術的な裏づけはあるんでしょうが、コンピュータは万能の箱という扱い方はやめてくれ、とどうしても感じてしまいます。特に最終盤ですが。あと、前作からですが固有名詞に対する「通称」とか「人呼んで」とかが多すぎてちょっと鼻につきますね。

全体に相変わらずとぼけた軽いノリの文体ですが、ところどころにウィットを感じます。そうした文章で現在の医療現場の実態や問題を描くことで、ただただ暗くなりがちな話題をニュートラルに現実の問題として認識出来るのは私は良いことだと思います。

なんというか、次作へのつなぎみたいな話なのかしらん、と邪推してますが、ま、次も買ってしまうんでしょう。きっと。

「長い長い殺人」 宮部みゆき 光文社文庫2008/09/06 00:58

会社員がひき逃げで命を落とす。その現場へ急行する刑事。その刑事の財布から話は始まる。何人かが命を落とし、人生を見つめなおし、やがて犯人に至るまでのさまざまな登場人物の財布たちの物語。

宮部みゆき、なんというか、お話をつづるのがやっぱり巧妙ですね。財布の視点、ていうのでこれだけ話を作るのだからすごいですね。その制約を感じさせない物語の展開が、描写がさすがです。

一方で話の中身はさほどパンチが効いているわけではないですね。まぁ、物語を楽しむ作品ですね。で、この話もご多聞に漏れず少年とおじさんのコラボあります。この辺はもうお約束っぽい感じです。

人と密接にかかわる持ち物としての財布を使った物語なわけですが、90年頃までならそうですよね。今は肌身離さず持つのはむしろ携帯電話だったりするわけで、そこが抜けざるをえないのが時代、という奴でしょうか。そこを割り引いて読まないと少し違和感を感じました。

ところでこの話、「模倣犯」のプロットじゃないか、と思われる節が結構感じられます。もちろん、「模倣犯」の方が遥かに物語の要素がいっぱいありますが、実は芯はこの話じゃない?とか邪推してしまいます。

「長い家の殺人」 歌野晶午 講談社文庫2008/05/17 01:07

学生生活最後のライブを前にした合宿で、バンドのメンバー戸越が殺された。死亡推定時刻に自室から消えていた死体は、翌朝突然姿を現した。メンバーや合宿場所のペンションオーナーが疑われる中、捜査は難航する。やがて、第2の殺人が起こる・・・

「ブードゥー・チャイルド」、「葉桜の季節に君を想うということ」の作者のデビュー作です。新装版ですが、全体に初々しい感じですね。正統派ミステリの香りがぷんぷんします。ちょっと苦手。文末の解説、というか推薦文が島田荘司です。話も全体に島田風ですね。かなり苦手。

「ブードゥー…」は話のからくりは大体事前に読めました。一方で「葉桜…」はまんまとやられました。この2作は読んでて結構楽しめました。で、本作ですが、トリックのメインになるところはわりとすぐ分かりました。犯人と動機はちょっとわかんなかったですね。あまりやられた感はありませんが。

先に読んだ2作に比べると、お話を書いてます、という感じのしらじらしさを少し感じます。特に最後のあたりの探偵役の価値観にはちょっとついていけません。なんだか酔っ払いのいいわけみたい。なんか、メッセージ性があるのかないのか、中途半端な感じです。個人的には徹底的に手を入れた本作を読みたかったですね。