「沈まぬ太陽」 山崎豊子 新潮文庫2009/06/13 18:49

空の安全、従業員の権利を求めて活動を続けた国民航空労働組合委員長恩地元はやがて会社上層部に疎まれパキスタン、イラン、ケニアへと追いやられる。10年近くにわたる流刑に等しい懲罰人事の後、閑職をあてがわれた恩地のもとに未曾有の航空事故の報が入る。想像を絶する悲惨な事故の遺族係から会社再建へ奔走する恩地は、国民航空上層部と政治家、官僚との癒着、社内の腐敗の壁に阻まれる。

「大地の子」などで有名な巨匠山崎豊子の大作ですね。読みごたえのある作品でした。すごいと思うのは、よくこの小説を連載し続けてしかも出版にこぎつけたものだと思います。そこにはものすごい信念があったのだろうと思います。おそらく関係者に対する恫喝、脅迫なんかは日常茶飯事で、嫌がらせの枠をはみ出るような行為もあったんだろうと思います。

アフリカ編では主人公恩地の受けた理不尽な人事が主題なわけですが、もし自分がこういう懲罰人事を受けたらどうするだろうと繰り返し自答しました。ここまで筋を通した生き方をしてないのでこういう仕打ちを受ける可能性も低いとは思うのですが、多分会社辞めるでしょうね。こんなクソな会社、早々に見切りをつけると思います。

御巣鷹山編はもう悲惨の限りです。心が痛いです。何の落ち度もない人々がまさに八つ裂きにされたわけです。ここが山崎が書き続けるにいたった根源なのかもしれません。

会長室篇での国見は優れた経営者として描かれていますが、私にとってはがっかりでした。矜持や理想をかざして正論で問題に斬りかかるのはよいのですが、あらゆる汚い手を使って来る相手に本当にそれでいいのか。自分一人が負けるのは勝手ですが、その後ろに良識ある社員がいて、空の安全があってという状況ならほんとはなりふり構わず叩かねばならないのではないでしょうか。結局、相手に刃が届かなければ正論など所詮寝言だと思います。正論で勝てる技量がないなら、守るべきものがあるなら、どんな手を使っても相手を斬りつけないとだめなんじゃないかと思います。

一方でなんだかんだで長いものに巻かれて悲しい結末に終わった細井の姿が、一点の妥協の末に堕ち続けていった者の末路を暗示しているようで、人間、どっちかしかないのかという気にもなりました。恩地の意地、筋を通し続ける姿はみていて痛々しい程ですが、あるところから恩地の姿は山崎自身の姿を投影したものになっているんでしょうか。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://fey134.asablo.jp/blog/2009/06/13/4364050/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。