「八甲田山死の彷徨」 新田次郎 新潮文庫2007/08/28 23:35

第八師団第四旅団長友田少将は第三十一連隊、第五連隊に対し、対露戦に向けた耐寒訓練を促す。用意周到に準備を進める第三十一連隊の徳島大尉と、日帰りの予行演習を行ったにもかかわらず、準備万端とはいえない第五連隊の神田大尉は、厳冬期の八甲田山系へ踏み込む。一方は遭難、凍死し、他方は無事帰還を果たす。その生死を分けたものはなんだったのか。

史実に基づくフィクションです。しかしながら、まったくの作り話というわけではなく、事件を綿密に調べ上げて書かれているようで、現実の緊迫感、絶望感がひしひしと伝わってきます。

特に、行く先を見失い、装備を失い、用便すらままならぬまま凍死していく下士卒たちの描写は悲惨そのものです。このあたりは「皇帝ナポレオン」でのロシア戦役に通じるものがあります。東西を問わずロジスティクスは軽視され、その破綻は悲惨な結末を招くようです。例外は古代ローマくらいでしょうか。

第五連隊の遭難の原因としてさまざまなものが挙げられそうですが、実際には、軍隊なんて実はこんなもん、というところが真実なのかも知れません。それでもなお、彼らに足りなかったものは何か、と問われれば、統一された指揮系統、事前のリスク分析と対策立案が挙げられるかな、と思います。

悲しいのは、こうした経験は後世に生かされることなく、日本軍は同じような過ちを40年後、南方で繰り返すわけです。気合や根性や誇りでは解決できないものが多いことを肝に銘じたいものです。

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