「時の渚」 笹本稜平 文春文庫 ― 2006/12/23 16:41
「息子を捜して欲しい・・・」 ホスピスでわずかな余命を数える老人松浦から35年前に捨てた子の捜索を依頼された探偵茜沢は、その赤ん坊を預けたという女性を捜し始める。時の流れの中で風化しかけたその女性の数奇な半生はやがて、茜沢自身の家族を轢殺した男の人生と交わる。茜沢は、松浦は、人生のツケにカタをつけることが出来るか。
第18回(2001年)サントリーミステリー大賞受賞作です。ハードボイルド探偵物ミステリといったところでしょうか。出だしで、マッチョな雰囲気が出ていますが、マッチョなバイオレンスシーンは少ないです。そういうところに好感が持てました。また、文章もうまいですね。雰囲気があり、読ませる文章だと思いました。
主人公は35年の年月を経た探し物をするわけですが、調査の中でだんだんと材料が集まり、真実へ近づいていく過程が面白いですね。もちろん、現実には、こんなにとんとん拍子に調べがつくことはないと思いますがそのあたりは気になりませんでした。強いてあげるとすれば、世間の人々は、探偵、と名刺にすってある人間にそんなに好意的だろうか、という気はしました。ま、その辺は茜沢の人物が良かったと思うことにしましょう。
気になったことを書きますが、ネタバレになるので抽象的な表現にします。事実は小説より奇なり、と言いますが、これは当たり前だと思います。あまりにも現実から乖離した小説を書いてしまうと、急に作り物めいてしまうわけで、通常、読者が納得できる蓋然性の範囲でしか話は作れないと思います。そういう意味でこの小説は私の納得できる蓋然性の範囲からはかなり逸脱しているように思います。
ドラマや映画はその世界観を映像の形で見せてくれるわけで、こちらで構築する部分はそれほど大きくないと思います。なので、多少ぶっ飛んだ内容でもそれなりに納得できたりします。一方、小説は文字だけですので、世界観のかなりの部分を読者が構築する必要があると思います。少なくとも私は読書の中で自分なりの世界観を構築するわけですが、それがうまくいかない作品はネガティブに判断しています。
文章自体は嫌いなタイプではないので、他の作品も読んでみようかと思うのですが、冒険、謀略小説なんですよね。こういうのはぶっ飛んだ設定になりがちで、ちょっと読むのに勇気が要るなぁ。
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