「模倣犯」 宮部みゆき 新潮文庫2006/02/11 17:03

公園のゴミ箱から女性の腕と行方不明のOLのバッグが発見された。そして、OLの家族を嘲笑する犯人からの電話。警察、マスコミ、被害者家族を巻き込んだ前代未聞の劇場型犯罪が幕を開ける。

稀代のストーリーテラー宮部みゆきの代表作のひとつですね。映画化もされていたと思います。文庫化されたので早速読んでみました。非常に読み応えがある作品だと思います。特に量的にかなりあるので、腰をしっかりすえて読まないと、途中でくじけてしまいそうでした。

私の気持ちが弱いせいかも知れませんが、1巻、2巻は結構読んでてつらかったです。有馬義男が犯人に振り回されるシーン、愚弄されるシーンなんかは、お話だとわかっていても気持ちが凹みました。そういった意味でのめりこんでしまう話なのかもしれません。3巻以降の展開は多少落ち着いて読めますが、ストーリー自体は飽きがこないようにいろいろと工夫されていると思いました。

ただ、この作品で表現したかったことを書くのに、本当にこの枚数必要だったのか?という点で多少疑問があります。あれこれ良い素材が贅沢に入ってるんだけど、量が多すぎて食べるのが大変な鍋料理のようだ、と思いました。多分、宮部みゆきは書きたいことがすごくいっぱいある作家なんでしょうね。この作品のネタのいくつかはそれだけで一作書けるようなものも混じってて、並みの作家じゃひとつの作品にこれだけのネタは入れないんじゃないでしょうか。

で、こんな風に感じた作品他にもあったよなぁ、と記憶をたどると、小野不由美の「屍鬼」でした。この作品も文庫版5巻組で、しかもカバーの絵が同じ藤田新策でした。この作品、話は全然違いますが、読後に本当に5巻必要だったのだろうか、と考えさせられた点がよく似ていると感じました。

この作品も、特に引っかかるようなところはなかったのですが、一点だけ、水野久美がなぜ、塚田真一と交際するようになるのかが不思議ですね。ま、男女の仲の機微に疑義をはさむなんてのは野暮の至りですが。

「DZ」 小笠原慧 角川文庫2006/02/16 23:44

ベトナム系天才遺伝学研究者グエンは、日本人留学生石橋を新しい研究のパートナーに選ぶ。類人猿の卵子に遺伝子操作を加える研究は、しかし、恐るべき目的を持っていた。過去の陰惨な殺人から端を発した物語は、やがて石橋の恋人涼子を中心に回り始める。

医療系サスペンスです。遺伝学、発生学、生殖や障害、進化といった話題が盛られていて、難しく、重いテーマを多数はらんでいます。遺伝の法則くらいは頭に入ってないと、読んでてつまらないかもしれません。私自身は、難解な専門用語がでてくる薀蓄系の話が大好きなので楽しめました。

印象としてはとにかくよくまとまってます。一見いびつな形の石が、城の石垣のようにがっちりと相互に組み合わさって、隙のない立方体を作っている様子を連想します。文章自体はとくにリズミカルでも引き込まれる感じもしませんでした。描写も淡々としていて、それ自体が読ませる文章という気はしません。そういう意味で硬くてまじめで遊びの少ない文章だな、という印象です。

「知っていることを書け」という格言があるようですが、こういう専門知識のある人はやっぱり強いですね。もちろん、専門知識だけでこういう作品ができるなんて甘いものではないことは重々わかっていますが、現場の臨場感というかそういうものが伝わりやすいんじゃないかと思います。