「ローマ人の物語6~7」 塩野七生 新潮文庫2005/08/22 23:30

ローマ人の物語、続きです。

この巻では、ガリア、カルタゴ、オリエントといった地域を制覇していわゆる外憂を解消したローマが直面する内政の混迷を描いています。広がりすぎた覇権と古くなった行政システムにパッチを当てては内乱を起こし、その都度制度変更が行われる様子は、ちょっと読んだくらいでは覚えられません。

全体にどろどろした政争と内乱の話が多く、ちょっとうんざりな感じですが、7巻の最後に出てくる、2つの書簡の内容が印象的でした。一方はローマ帝国主義に破れた側、もう一方はローマ側の書簡です。それぞれ一部を引用すると、

「…ローマ人はすべての民に剣を向ける。だが、最も略奪品が多いと期待される民には、最も勇敢に戦う。戦闘と詐欺をくり返しながら、彼らは帝国を築きあげたのである。…」

「アジア…(中略)…は、われらがローマによって、果てしがなかった対外戦争と国内の内紛状態から、救い出された事実を直視しなければならない。…(中略)…なぜなら、この種の犠牲は、この地方に恒久的な平和をもたらすために、必要な経費であるのだから」

この、征服者側と被征服者側のコメントは、ローマやアジア、を別の国名にすると、そのまま世界史のあらゆる場面に当てはまりそうですね。もちろん、前世紀初頭のわれわれの国も関係しますが。

で、もうひとつ、最後の最後で参考文献の章があるのですが、地名、人名、官職名の発音の記述に関する注意書きがあります。この辺はうんちく好きにはたまらないものがあります。こんなところにまで罠を張られていて、まったく油断ができません。

「オーデュボンの祈り」 伊坂幸太郎 新潮文庫2005/08/24 23:44

コンビニ強盗の真似事をして警察につかまった僕は、パトカーが事故を起こしたドサクサで、通りかかった見知らぬ男に連れられ不思議な島へ逃げた。100年以上外界から完全に遮断されながら、完全に時代遅れというわけでもないこの島には、しゃべる案山子がいた。

あまり見かけないタイプの小説だと思いました。不条理な設定の中で事件が起こり、不条理な世界なりの解決をみる、といったミステリ仕立ての内容です。こういう方向性に新たな可能性を感じる人もいるかもしれません。

が、私にとっては、ミステリだと思って読むと、気になって仕方ないのが、島の生活。経済原理は、社会インフラは、教育は、と引っかかることしきりです。そういうのを吹っ切って、不条理な寓話のように読むと、まっとうに殺人を推理しようとする主人公や、やたらと低俗で残虐な主人公の幼なじみが出てきて、現実的なミステリやサスペンス側に引っ張られます。

全体に不条理な独特の世界観は出ているのですが、意識してそうなっているのか、単なるヘタウマなのか、文学力のない私にはちょっと判断が付きませんでした。とりあえず、別の伊坂作品を読んでみる必要がありそうです。今回は判断保留ということで。

とはいえ、不条理な世界での事件を、それっぽい理屈をつけて解決されても納得はし辛いですね。極悪非道な幼なじみの最後は、まぁ予想通りでしたが、この解決もあまり好きではありません。あまりに予定調和すぎるように思いました。不条理な設定ばかりだというのに。