「無痛」 久坂部羊 幻冬舎文庫 ― 2008/11/08 18:27
神戸で診療所を開く為頼はタクシーに忘れた財布を拾ってくれた母子をその特異な能力で救う。その能力とは外見のみで病気の症状を見抜き、犯罪者をも見分けることの出来る能力だった。為頼に救われた菜美子は教師一家惨殺を告白した14歳の神経症の少女の鑑定を依頼する。
世田谷一家惨殺事件、池田小事件、酒鬼薔薇事件などがモチーフになっているようです。そのほかにも各種通り魔事件が参考にされているのかもしれません。話の中身は描写の刺激が強すぎてちょっと楽しめる感じではありませんでした。
なんというか、本来目を背けずしっかり考えていくべきことと、何もそこまで描写せんでも、というところがごちゃ混ぜになっていて、全体にネガティブな気持ちにさせられるのがどうもなぁ、という感じです。やっぱり、過激な方へ過激な方へ持っていこうとしている気がして、もしそうなのだとしたらそんなところで勝負しないで欲しいと思います。
為頼は非常に冷徹に視診をします。治らない病気は治らない、治る病気はほっといても治る、という考えの下、医療を見限っています。ちょっと投げやりに過ぎる気がします。作中でもがんの死亡率が増加していることを指摘していますが、これって他の病気で死ににくくなってるから、ではないんでしょうか。作中のがんの死亡率、というのが母数がなんだか分からないので議論が難しいですが、それはつまり医療によって心筋梗塞や脳卒中などが救われる率が上がっている、ということだったりしないのでしょうか。
あと、為頼や白神のみたては全体にデジタルな感じです。病気かそうでないか、治るか治らないか、犯罪を犯すかそうでないか。本来、病気とか犯因性とかはアナログな値として出てきて、どこに閾値をおくかで見立てが変わるようなもんじゃないかなぁと思います。あと時間経過でどんどん変わるような気もしますし。本作では病気も犯罪も生来のものだ、という色彩を強く感じました。作者は阪大医学部卒業の医師と言うことです。まさに中之島の白い巨塔を出た方でこんな感想は一蹴されそうですが・・・
「模倣犯」 宮部みゆき 新潮文庫 ― 2006/02/11 17:03
公園のゴミ箱から女性の腕と行方不明のOLのバッグが発見された。そして、OLの家族を嘲笑する犯人からの電話。警察、マスコミ、被害者家族を巻き込んだ前代未聞の劇場型犯罪が幕を開ける。
稀代のストーリーテラー宮部みゆきの代表作のひとつですね。映画化もされていたと思います。文庫化されたので早速読んでみました。非常に読み応えがある作品だと思います。特に量的にかなりあるので、腰をしっかりすえて読まないと、途中でくじけてしまいそうでした。
私の気持ちが弱いせいかも知れませんが、1巻、2巻は結構読んでてつらかったです。有馬義男が犯人に振り回されるシーン、愚弄されるシーンなんかは、お話だとわかっていても気持ちが凹みました。そういった意味でのめりこんでしまう話なのかもしれません。3巻以降の展開は多少落ち着いて読めますが、ストーリー自体は飽きがこないようにいろいろと工夫されていると思いました。
ただ、この作品で表現したかったことを書くのに、本当にこの枚数必要だったのか?という点で多少疑問があります。あれこれ良い素材が贅沢に入ってるんだけど、量が多すぎて食べるのが大変な鍋料理のようだ、と思いました。多分、宮部みゆきは書きたいことがすごくいっぱいある作家なんでしょうね。この作品のネタのいくつかはそれだけで一作書けるようなものも混じってて、並みの作家じゃひとつの作品にこれだけのネタは入れないんじゃないでしょうか。
で、こんな風に感じた作品他にもあったよなぁ、と記憶をたどると、小野不由美の「屍鬼」でした。この作品も文庫版5巻組で、しかもカバーの絵が同じ藤田新策でした。この作品、話は全然違いますが、読後に本当に5巻必要だったのだろうか、と考えさせられた点がよく似ていると感じました。
この作品も、特に引っかかるようなところはなかったのですが、一点だけ、水野久美がなぜ、塚田真一と交際するようになるのかが不思議ですね。ま、男女の仲の機微に疑義をはさむなんてのは野暮の至りですが。
「三屋清左衛門残日録」 藤沢周平 ― 2005/05/25 23:54
人気の藤沢周平です。10年ほど昔、人に勧められて、というか本そのものをプレゼントしてもらって初めて読みました。この1年ほどそんなことを思い出して、ぽつぽつと読み始めています。当時も、独特の世界を感じ、面白いと思いましたが、多分、今のほうが楽しめているような気がします。
藤沢作品は、まったり流れにまかせて読むのに適した本だと思います。もっとも、それほど多く読んでいるわけではないので、私の読んだ範囲ではそんな気がしました。穏やかな休日にゆったりと読書をするならこれかなぁ。
「残日録」ですが、藩のトップを経験した武士が、それまでの自分の世界であるところの藩政から一定の距離を置き、自らの老いを見つめ、日々の事件や若き日の思い出に整理を付けていくわけですが、キャリアとは、老いとは、と考えさせられるところがありました。
文章による絶妙の呼吸、間が、独特の空気、というか世界を感じさせます。おじさんはこういうのにはまるよなぁ。多分。
最近のコメント