「深海のYrr(イール)」 フランク・シェッツィング 早川書房 ― 2008/06/28 21:33
海洋生物学者ヨハンソンは友人で石油会社に勤めるルンから北海海底で発見された正体不明のゴカイの鑑定を依頼される。一方、海棲哺乳類研究家のアナワクはカナダ沿岸でクジラとオルカの襲撃を受ける。ほどなく世界規模で海難事故が相次ぎ、恐るべき事実が明らかになる。
SFですね。非常に面白かったです。ボリュームは相当ですが、それを感じさせない内容でした。当初、押し付けがましい環境運動啓蒙小説か?とも思いましたが、そんなことはありませんでした。
惜しむらくは後半の展開の時間軸がちょっと短い。世界的な科学者を集めたといっても、あの期間でそこまで成果は出ないだろう、と思います。冒頭でのゴカイの分析にはあんなに時間がかかったのに…
あと、ほぼ西欧で話が済んじゃってるのが残念。
とはいえ、SF的な設定におぼれることなくきちんと小説している上にエンタテインメントとしても楽しめます。広げた風呂敷も大きいですが、それほど無理なく終盤でたたんでいくことに成功しているので興ざめせずに最後まで読むことが出来ました。
作中でしきりに映画「コンタクト」が引用されます。私は映画は見たことないんですが、カール・セーガンの原作(もちろん日本語訳)を20年ほど前に読みました。あの話は異星人とのコミュニケーションという遠大なテーマの中に、主人公である女性研究者自身の内面とルーツの発見という2つのコンタクトが描かれていました。最後にミッシングリンクが閉じる結末は非常に見事でした。
本作は「コンタクト」を凄く意識して書いているように感じました。特にアナワクがコンタクトの主人公の役回りなのかもしれません。ただ、結末の印象はかなり違います。「コンタクト」が閉じる話だとすると、これは開く話ですね。作中からメッセージを伝える、というよりは深く考えさせられるという感じがしました。
2008.7.2追記:あとから考えてみると、あの潜水艇のスペックはちょっと異常ですね。水深3000メートル以上でいくらなんでもそれは不可能なのでは…
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