「アラスカ物語」 新田次郎 新潮文庫 ― 2007/12/17 00:03
明治初頭、医者の家に生まれながら早くに両親を失った安田恭輔は日本を飛び出し、沿岸警備船ベアー号のキャビンボーイとして北極海にいた。不正の濡れ衣を着せられ、その汚名を雪ぐもベアー号を降りたフランクは、純朴な沿岸エスキモーに魅かれ彼らの集落に住み着く。やがてフランクは野生生物乱獲によって存亡の危機を迎えた集落の人々を救うため、アラスカ内陸への新天地探索へ旅立つ。
これ、非常に面白かったです。きっとそのうち再読すると思います。わが書庫の殿堂入りですな。
まず、冒頭でフランクが北極海を一人歩くシーンで引き込まれます。「八甲田山」でも思いましたが、こういうシーンの描写は息をのみます。この作者の寒冷地、極地の描写シーンは飛びぬけてますね。気象台、富士山測候所勤務の経験から来るのでしょうか。
冒頭に限らず、淡々とした調子でありながら自然描写が豊かです。人物も生き生きと描かれています。妙に気取った言い回しは出てきません。誠実でそれでいて卓越した文章だと思います。
かなり綿密に、手広く調査された上でフィクションを織り交ぜているのだと思いますが、主人公、フランク安田の数奇な、しかし筋の通った人生に深い感動を覚えました。こういう日本人がいた、ということを知らなかったことを恥ずかしく思いました。
本来縁もゆかりもない人々の安住の地へ導く、というビジョンを打ち立てて、アラスカ内陸へ活路を求める。目的と手段への明確な意識、リーダーシップ、そして粘り強い完遂力、「八甲田山」と供に、リーダーシップのよい教科書ですね。
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