「疾走」 重松清 角川文庫2005/11/12 00:11

「浜」で育ったシュウジは、「沖」に住む同じ陸上部のホープ、エリの走る後姿に惹かれる。「浜」の「沖」に対する偏見の中、リゾート計画が「沖」に持ち上がり、兄シュウイチが地元の進学校へ進んだ時から、何かが壊れ、何かが狂い始めた。これが、シュウジの苛酷な運命の始まりだった。

…重い、ですね。こころが痛かったです。とにかく救いがない。弱いものがさらに弱いものを打つ。その一方で弱いものに手を差し伸べる人がいません。物語の中で重要なポジションを持つ神父も、見守り、祈ることはあっても手を差し伸べるわけではないです。

文中、繰り返し「おまえ」という2人称で話が進行します。なにかを突きつけられ、詰問されているようにも感じます。エリが転校する時にクラスメートにいう言葉を引用します。赤犬は放火魔のことです。

「大っ嫌い、あんたたち」
 「あんたたち、みーんな、赤犬になっちゃうんだよ。誰だって。いまはなっていないだけなんだから」

私を含めて、誰しもが持つ内面の汚い部分を指弾する言葉なのだと思いました。それが、読後、こころが痛い理由なのかもしれません。極端に悲惨な話なのですが、最近のさまざまな事件報道を見る限り、リアリティを失うような事はありませんでした。それがまた悲しい気持ちになります。感動、というのではなく、こころを鷲掴みにされ、がくがく揺すぶられるような作品でした。

シュウジにとっての宿命はエリ、だったんでしょうね。遥か前を走っているはずのエリの後姿を追い続けて、ボロボロになりながらもとうとうエリに追いついてしまいます。そこがシュウジにとってのゴールだったのだろうと思いました。同じくボロボロになって止まってしまいそうだったエリとシュウジの最後は悲しいですが、ほんの少しだけはかない救いを感じました。