おぼっちゃま ― 2005/11/07 23:22
先日、他社オフィスにて午後一の会議に出席するために都内某所へ外出しました。約束の時刻までかなりあったので、近くの喫茶店に入り、このご時世に一杯700円もするカフェオレを飲みながら本を読んで時間を潰しておりました。
しばらくして、近くの席に母親と息子という親子づれっぽい客が座りました。2人ともカジュアルではあるものの結構上品な身なりをしていて、カネ持ってんな、という感じですが、息子の方はいらだった様子で足を投げ出して座り、母親は妙におどおどした様子で対面に座ります。以下、そのときの会話。
「…これでもママ、xxちゃんのこと怒らせないように気をつけてるつもりなんだけど…」
「は? あんた何言ってんの? じゃ、聞くけど、あんた俺のことちゃんと考えてくれてんのかよ?」
「考えてるわよ…」
「あ? ooちゃんの就職の時はずいぶん考えてたけど、俺のことは全然考えてねぇじゃねぇか!」
店はほぼ満席なのにもかかわらず、息子の方は投げ出した足で母親の座っている椅子を結構な音を立てて蹴飛ばしています。息子の方が小学校高学年くらいまでなら、甘ったれたガキだなぁ、ですむような気もしますが、どう若く見ても18~20歳、順当に見ると20代後半といったいい歳した青年です。
一瞬ドラマの撮影か、とすら思いましたが、現実にああいう人間って存在するんですねぇ。私はあまりの居心地と気持ちの悪さに早々に退散しました。できれば、ああいうのは世間に出てきて欲しくないなぁ、と祈るばかりです。
「蝉しぐれ」 藤沢周平 文春文庫 ― 2005/11/08 23:36
海坂藩普請組の下士の養子牧文四郎は、養父助左衛門が政争に巻き込まれ、反逆者の息子として耐える日々を余儀なくされる。そして、それと意識することも、ましてや成就することのない淡い恋も、運命に流されていく。鬱屈した思いを剣術にぶつけ、やがて自身も政争に巻き込まれていく文四郎の運命は…
映画化、ということもあって平積みになってたのを手にとってみました。われながらミーハーですね。
海坂藩、政争、秘剣、忍ぶ恋と来ると、どこかで見たような藤沢ワールド、といった感じになりますねぇ。この作品は、青春の悔恨、がテーマでしょうか。用心棒日月抄なんかと比較すると、全体にやや暗めなお話だと思いました。
若いころの成就しなかった恋とそれに対する悔恨、という視点と、なんだか組織の中で報われない、という視点がおっさん心をかき立てるものがあるのでしょうか? 別に格段過去に悔恨のない私でも、郷愁というか懐古というかそういう気持ちを感じます。
不思議なのは、長編なのにそれほどエピソードにあふれているわけではありません。ヤマもオチもそこそこしかないのに、それなりに読ませる、というのはやっぱり文章力なのでしょうか。このあたりはさすが、という感じです。
ちょっとストーリーが予定調和な感じがどうかな、とか、ただ運命に流されていく受身な感じがちょっと、という感想もありますが、ここは藤沢ワールドをあるがままに受け入れてまったり読んでおくのが吉かと思いました。
「疾走」 重松清 角川文庫 ― 2005/11/12 00:11
「浜」で育ったシュウジは、「沖」に住む同じ陸上部のホープ、エリの走る後姿に惹かれる。「浜」の「沖」に対する偏見の中、リゾート計画が「沖」に持ち上がり、兄シュウイチが地元の進学校へ進んだ時から、何かが壊れ、何かが狂い始めた。これが、シュウジの苛酷な運命の始まりだった。
…重い、ですね。こころが痛かったです。とにかく救いがない。弱いものがさらに弱いものを打つ。その一方で弱いものに手を差し伸べる人がいません。物語の中で重要なポジションを持つ神父も、見守り、祈ることはあっても手を差し伸べるわけではないです。
文中、繰り返し「おまえ」という2人称で話が進行します。なにかを突きつけられ、詰問されているようにも感じます。エリが転校する時にクラスメートにいう言葉を引用します。赤犬は放火魔のことです。
「大っ嫌い、あんたたち」
「あんたたち、みーんな、赤犬になっちゃうんだよ。誰だって。いまはなっていないだけなんだから」
私を含めて、誰しもが持つ内面の汚い部分を指弾する言葉なのだと思いました。それが、読後、こころが痛い理由なのかもしれません。極端に悲惨な話なのですが、最近のさまざまな事件報道を見る限り、リアリティを失うような事はありませんでした。それがまた悲しい気持ちになります。感動、というのではなく、こころを鷲掴みにされ、がくがく揺すぶられるような作品でした。
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