「それでも警官は微笑う」 日明 恩 講談社文庫2010/06/05 23:45

池袋署の武本は1年前の殺人事件に使われた拳銃の出所をひそかに追い続けていた。単独捜査の中で知り合った麻薬捜査官の宮田と年下の上司潮崎とともに事件を追う。一線を越えた捜査を続ける中、事件の中心に中国人実業家が浮かび上がる。

警察小説を標榜する作品なんだろうなと思います。文章のタッチは比較的軽めですが、嫌味なほどではないです。登場人物のキャラクターがよく立っていて、漫画にすると面白いかもという気がしました。特にいいとこの坊ちゃんという設定の潮崎の描写は油断すると上滑りしそうなんですが、適当なところで抑えが効いていていいですね。

ストーリー自体は少し風呂敷を広げすぎかなという気もしますが、全体的に楽しんで読むことができました。いろいろ盛りだくさんで分量もそれなりにありますが、あまりそういうことは感じないで読み切ることができます。

作中に盛んに他のミステリ、サスペンス小説の登場人物が出てきますが、ことのほか高村薫作品へのリスペクトが感じられますね。この辺もそれぞれの作品を読んだ人はニヤッとするのかもしれませんが、行き過ぎると腐女子的な香りを感じてしまうのでそこはさらっと読み流すのが吉かもしれません。

「グラーグ57」 トム・ロブ・スミス 田口俊樹訳 新潮文庫2010/06/26 23:08

レオが3年前に孤児院から引き取ったゾーヤは未だ国家保安省の捜査官であったレオに強い憎しみを抱いていた。そんな折、フルシチョフの秘密演説の原稿が発表され、かつての国家保安省の関係者が次々と殺される事件が発生した。やがて犯人の手はライーサやゾーヤに向かい、家族を救うためレオは酷寒の強制収容所「グラーグ57」を目指す。

前作「チャイルド44」の続編です。原題はどうも「THE SECRET SPEECH」、秘密演説、秘密報告を指すようです。スターリン亡きあとの旧ソ連の指導者フルシチョフが行った反スターリン主義的報告のことを指していると思いますが、かなり大胆に邦題をつけたような気がします。もう一作続編があるようですが、そっちもこんなタイトルにするんでしょうね。

テーマは人は人を憎しみ続けることはできるのか、といったところでしょうか。捜査官時代のレオの所業に憎しみを持つゾーヤとフラエラがこの物語の軸になります。そんな憎しみに対してレオは愚直に解決に臨みます。そんなレオを見て、妻のライーサすら「レオというのはなんとナイーヴな人なのだろう。」と言わしめるほどの愚直さですが、自らの唯一の寄る辺である家族を守るという強い意志を感じます。

この作品は東は日本海、西はハンガリーとかなりスケールの大きい話になっています。ちょっと風呂敷を広げすぎの感はありますが、押しつぶされそうな旧ソ連の全体主義社会をベースに、中央の方針が徹底しない辺境の強制収容所と動乱を起こした同盟国の緊迫した雰囲気のおかげでページを繰る手をなかなか止めてくれません。

前作に引き続き、この作品もかなり楽しめました。さらに続編が出るようならたぶん買っちゃうだろうなぁ。