「剱岳 点の記」 新田次郎 文春文庫2009/10/11 18:27

参謀本部陸地測量部の測量手柴崎芳太郎は上官から国内唯一の未踏峰剱岳の測量を命じられる。それはその時期に産声を上げた民間の山岳会との競争をはらんだものだった。官として無事測量を完遂することと、初登頂への挑戦の板挟みの中、柴崎は立山へ出発する。

明治時代の測量官のお話です。合繊なんかない時代ですから、雨が降れば蓑笠、ロープは荒縄、みたいな登山だったんだろうと思われます。そんな機材に恵まれない中、測量機器、三角点の部材をしょって登山道などろくにない深山に分け入って、日本地図を完成させた先人の苦労を感じさせる本でした。

通信手段も移動手段も今と比べればものすごく限定されている中、計画的に物品を調達し、調査、測量を行っていく様子はすごいと思いました。携帯電話で連絡入れて、Amazonで買って家まで送ってもらう、なんてことはできないわけで、かなり周到に用意をしないとだめだったんでしょうね。

剱岳初登頂を達成せよという命令を言外に匂わすのは軍人です。メンツや誇りをかけて気合で達成といういつものスキームです。で、実は人跡未踏ではなかったということが分かるとさっさと幻滅するのも軍人です。結局、現場を知らない上司というのはこういうものですね。そんな中でいい仕事をするには、そういうことには目もくれず、自分の納得する仕事をする、という気持ちを持つしかないのかもしれません。