「ローマ人の物語27~28」 塩野七生 新潮文庫 ― 2007/02/08 23:19
この巻のテーマは「すべての道はローマに通ず」です。街道、橋、水道といったローマ帝国特有のハードなインフラと、医療、教育などのソフトなインフラについて述べられています。テーマの特性上、これまでローマの歴史をなぞってきた流れを一時中断してローマ史を縦横無尽にたどりながらさまざまなインフラについて紹介しています。
普通に人が踏み固めた道があるのに、何メートルも掘り起こしてすべて敷石舗装にしてしまう。井戸を掘ったり、川の水を汲んでくれば事足りるのに、キレイな水源から何十キロもの距離の水道を引いてくる。生活の質、QoL(Quality of Life)なんて現代の言葉じゃないんじゃないか、とすら思えるこだわりようです。
現代の日本みたいに、この手の政府調達案件で至福を肥やす人々は多くなかったのだろうか、と思いを馳せてしまいます。
最近、やむにやまれずキライなビジネス書も読んでいるのですが、トーマス・フリードマン著の「フラット化する世界」を読んでいると、これって、ローマ帝国じゃん!? とか思ってしまいます。その共通性はなかなか興味をそそります。ちなみにローマ帝国はキリスト教の勃興で滅び始め、イスラム教の侵攻で最後に残った東ローマ帝国の首都コンスタンティノープル陥落により幕を閉じます。フラット化した現代の世界を見回すと… ちょっと嫌な気持ちになるのは私だけでしょうか。
なお、別に私はグローバリズム礼賛者でもなければ否定派でもありません。念のため。
この巻は、以下の言葉で締めくくられています。ちょっと長いですが、引用します。
現代でも、先進国ならば<中略>インフラの重要さを忘れて暮らしていける。だが、他の国々ではそこまでは期待できないので、かえってインフラの重要さを思い知らされる。水も、世界中ではいまだに多くの人々が、十分に与えられていないのが現状だ。
経済的に余裕がないからか。
それとも、それを実行するための、強い政治意思が欠けているからか。
それともそれとも、「平和(パクス)」の存続が保証されないからであろうか。
件のビジネス書を読んで、これを読むと、またその重さが違うように感じます。
「推理小説」 秦建日子 河出文庫 ― 2007/02/13 23:09
勤め帰りのサラリーマン、家路を急ぐ女子高生が同時に殺される。関連性の見えない連続殺人を追う雪平と安藤をよそに第三の殺人が起き、殺人をなぞった小説の一部が警察、報道機関に届く。そして犯人は以降の殺人の中止と小説の続きを最低落札価格三千万円でオークションにかける。前代未聞の犯行に出版社、報道機関、警察はどう対処するのか。
昨年(2006)、「アンフェア」としてテレビドラマ放映された作品の原作です。ドラマの方はわけわからん陰謀ものになって行きましたが、この夏、続編が映画化されるようです。うーん。ある意味スゴイな。
作中に出てきたノックスの十戒とヴァン・ダインの二十則は知らなかったので調べました。勉強になりました。ご馳走様でした。なんというか、カビ臭い感じのルールですね。今度オレのxx則とか考えてみよう。
で、作中、リアリティがどうとか、オリジナリティがとか、どんでん返しがとか出てきますが、私は別にそういうの求めないですね。面白さとそんなに関係ないと思います。逆にどんなにリアリティがあっても、描写や説明に納得性がないものは受け入れられないです。それが、リアリティがない、ということなのかもしれませんが。
本作自体は別にアンフェアでもリアリティがないわけでもオリジナリティがないわけでもないと思います。ミステリたらんとしているのか、していないのか良く分かりませんが、単に私にとってはそれほど面白くなかった。いろいろ仕掛けはあるようですが、味がない、奥行きがないと思いました。
「アンフェアなのは、誰か」 もちろん、私でしょう。結末知ってて読んだ上で面白くない、とか言ってんですから。アンフェア極まりない。
「パイロット・イン・コマンド」 内田幹樹 新潮文庫 ― 2007/02/20 23:17
ニッポンインター202便は霧雨のロンドンを成田に向けて飛び立った。名うてのクレーマーである要注意旅客、入国法違反で護送される特殊旅客を乗せ、客室乗務員たちと機長の不和を抱えて飛ぶ機内のトイレで備え付けのライフベストが捨てられているのが発見される。やがて日本近海へ差し掛かったころ、絶体絶命の危機が訪れる。これは事故か、陰謀か。
ジェットストリ~ムな導入がなんともいえないですね。ちょっと気障というかクセがある感じですが雰囲気もあります。ミステリとしてはちょっと、という感じでしょうか。陰謀ものとしてはうーん、ですが、サスペンス、クライシスものとしては結構楽しめました。
主役の江波の「欲求不満の優柔不断男」というキャラクタがなんとも言えませんね。私としてはこの上にセクハラ男、の称号を与えたいところです。翻って客室乗務員の皆さんは、個性はあるものの総じて美しく、賢く、健気な感じで描かれています。こういうのにおじさんのファンタジーはくすぐられる一方で、ホントはもっとお互いドロドロしてんじゃないの?と思わず下衆な勘繰りが入ってしまいます。
コックピット周りのシーンは(当時)現役機長が書いただけあって、臨場感がすごいと思いました。特にトラブル発生とその進行、それへの対処のあたりは手に汗握る展開でなかなかでした。飛行機マニアが見るとおや?というところがあるのかもしれませんが、単なる飛行機好きとしては非常に楽しめました。
ただ、好みの問題でしょうが、エピローグがどうもしっくり来ませんでした。最後、時間がなかったのか?とも思えるような締め方でした。こういう無機質な終わり方が好みの人もいるかと思いますが、私はもう少し人間絡めてウェットな感じがよいですねぇ。あと、ミステリ、陰謀物としても、広げた風呂敷のたたみ方がもうひとつだと思いました。
デビュー作ということもあるので、別の作品も見てみようと思います。あー、フライトシミュレータやりたくなってきた。操縦桿コントローラで。
それってパワハラでは・・・ ― 2007/02/27 00:08
最近、au の気になるCMが。詳しくはこちら。 http://www.kddi.com/ad/index.html
篠原涼子演じる課長が、要領の悪い部下(男)を叱責する。
「キミ、何年この仕事やってるの?」
べそをかき始める男。
ま、ここまではよくある展開。課長の台詞は指導とは言えず、相手の自尊心を傷つける効果しかない言葉ですが、ま、四六時中こういう叱責を繰り返さない限りパワハラではないでしょう。問題は次。
課長、やおら、携帯を開いて、
「泣き顔、かわいい…」
と、写真を撮り始める。他の同僚も集まってきて、
「かわいい、私にも送ってください。」
やがて笑い出す男。
ここが、気になります。叱られて泣いているというのは、男でも女でもある種の屈辱的な姿、ですよね。それを撮影してみんなに見せる、という行為はマズいと思います。しかも叱った当人です。男も笑ってますが、周囲の雰囲気で仕方なく笑って内面は深く傷ついているんじゃないか? って考えさせられます。これは立派なパワーハラスメントですね。
そういう感情の動きもありうるって想像できないのかなぁ。この CM を世に送り出してる人たちは。少なくとも私にとってはかなり不愉快な CM です。
以前の、赤ん坊にヘッドフォンつける CM といい、au の宣伝部のコンプライアンスへの意識はどうよ、って感じるのは私だけでしょうか。
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