「果つる底なき」 池井戸潤 講談社文庫 ― 2006/08/03 23:43
銀行員伊木は、不可解な死を遂げた回収担当の同僚坂本の謎を追ううち、倒産したかつての融資先、東京シリコンの不適切な手形処理に行き着く。かつての恋人で自殺した東京シリコン社長の娘菜緒を巻き込んだ調査の果て、伊木は浅ましい人間の性を目の当たりにする。
まだ乱歩賞ウォークしてます。第44回(1998年)の受賞作です。バブル後の債権回収真っ盛りの頃書かれたのだと思います。ハイテクバブルの端緒の時期でもあったように思いますが、そういう意味ではタイムリーなテーマだったのではないかと想像します。で、今読んで古臭いか、というとそうでもなかったです。私が経済に疎いだけだからかもしれませんが、読んでて大変興味深かったです。
読んでて最後までちょっと引っかかるところ(坂本のxx。すごく几帳面だという描写なのに…)はあったのですが、まぁ、許容範囲でした。全体に文体は固め。ですが、堅苦しい、という感じはしません。ところどころに見られるちょっとした情景や登場人物の所作の描写がいい感じだと思いました。あと、後半に行くにつれ、だんだんと話が盛り上がっていく持って行き方のバランスが良いと感じました。これ、最近読んだ中ではかなり好みです。
あと、文中の季節が梅雨の末期から梅雨明け、そして夏ということもあって、時期的にぴったりでした。お話の中身と現実の季節がマッチするとちょっとうれしいのは私だけでしょうか。私も来週から夏休みです。
「左手に告げるなかれ」 渡辺容子 講談社文庫 ― 2006/08/17 23:41
「アフターファイブに泥棒やってたことが発覚してね、前の会社コレになりました」自らの過去をそううそぶく保安士八木薔子は、かつての不倫相手木島の妻の殺害容疑を受ける。八木は3年ぶりに再会した木島と供に事件を調べる中、流通業界の苛烈な裏側を知る。
乱歩賞ウォーク第3弾、第42回(1996年)の受賞作です。スーパーやコンビニなどの流通業界周辺を扱ったミステリです。
スーパーなどの大規模小売店で万引などを取り締まる保安士、いわゆる万引Gメンというやつが主人公です。流通業界の裏側がいろいろ出てきます。その手の薀蓄はそこそこ興味深いのですが、肝心の話の方が今ひとつでした。いろいろな方向へ話を引っ張っていくのですが、結末に至って、あれ?という感覚を持ってしまいました。今までのアレはただの振りですか?という感じでしょうか。
こう、最後になって、犯人がぺらぺらしゃべって次々種明かしをする、というようなのは2時間ドラマで十分です。展開にひねりがなさすぎな気がします。主人公八木のボス、指令長の坂東女史のキャラクタがめちゃめちゃ立っていただけに、もっと登場させて欲しかったですね。とくに、結末。
最後にどうでもいいんですが、薔子の「薔」という文字、常用漢字にも人名漢字にも見つかりません。この名前は戸籍係に受け付けてもらえなさそうですね。そう考えると「氷のバラ」という通称のためだけの名前、とも取れるわけで、なんかあざとい感じがします。
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